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トルコ大統領、続投のエルドアン氏 「カリスマ」が直面する難題とは

2023年5月28日、トルコで行われた大統領選挙の決選投票で、現職のレジェップ・タイイップ・エルドアン氏(69)が野党統一候補のケマル・クルチダルオール氏(58)を僅差で破り、再選を果たした。これでエルドアン氏は約20年にわたって政権を握り続けることになるが、国内外で直面する難題は少なくない。エルドアン氏はどのような人物であり、どのような政策を展開してきたのか。そして、今後のトルコの方向性はどうなるのか。本記事では、これらの点について解説する。

エルドアン氏の人物像と政治的背景

エルドアン氏は1954年2月26日、トルコ最大都市イスタンブールで生まれた。貧しい家庭で育ち、サッカー選手や路面電車の運転手を目指していたが、政治に興味を持ち始める。1980年代からイスラム主義政党に所属し、1994年には福祉党からイスタンブール市長に当選した。しかし、1998年にイスラム教徒への憎悪を煽ったとして有罪判決を受け、市長職を失い、4ヶ月間投獄された。

その後、エルドアン氏は公然としたイスラム主義政治から距離を置き、2001年に穏健保守派の公正発展党(AKP)を設立した。2002年にはAKPが圧勝し、2003年から2014年まで首相を務めた。2014年には大統領に選出され、2018年にも再選された。

エルドアン氏は自らを保守的民主主義者と称し、社会保守主義的でポピュリズム的な政策を推進してきた。首相時代にはトルコの欧州連合(EU)加盟交渉を進める一方で、イスラム教徒や国民主義者の支持基盤を固めるために宗教や文化への介入も強めた。また、インフラ整備や社会保障制度の拡充などで経済発展を実現し、国際社会でも存在感を高めた。

しかし、近年はエルドアン氏の支配が権威主義的・集権的・拡大主義的な傾向を強めていると批判されている。2013年から2014年にかけて起きた反政府デモや汚職スキャンダルでは強硬な対応を取り、報道機関やソーシャルメディアへの検閲や圧力も強化した。2016年7月に起きた軍事クーデター未遂では反対派やギュレン派(テロ組織と指定されているイスラム教指導者フェトフッラー・ギュレン氏率いる運動)とみなされる人々を大規模に粛清し、非常事態宣言も発令した。

エルドアン氏は2017年4月に行われた国民投票で大統領制への移行を承認させ、自らの権力基盤を強化した。新体制では大統領が行政府と議会の両方に対して強い影響力を持ち、任期も2期10年まで延長されることになった。

エルドアン氏が直面する難題

エルドアン氏が再び続投することで、トルコ国内外ではさまざまな難題が浮上している。

国内では経済危機が深刻化している。トルコリラは2020年以降急落し、インフレ率も44%に達している。物価や生活費の高騰は国民の不満を増幅させており、エルドアン氏自身も「経済戦争」と表現している。エルドアン氏は金利引き下げや外貨準備高低下など型破りな経済政策を採ってきたが、その効果は見えず、中央銀行総裁も何度も交代させてきた。

また、2020年2月と5月に起きた南部での大地震では11県で5万人以上が死亡し、多くの被災者が救助や支援を求めている。しかし、エルドアン政権は地震対応への批判や不満を抑え込もうとし、「余震や悪天候で救助に遅れ」、「地震被害者への支援金は十分だ」と発言するなど不信感や反発を招いている。

さらに、政治的自由や人権への侵害も問題視されている。エルドアン政権下では報道機関やソーシャルメディアへの圧力が強まり、YouTubeやTwitterなどへのアクセス制限も行われている。また、野党や反対派活動家への逮捕や拘束も相次ぎ、国際人権団体から非難されている。

国外では外交面で複雑な課題が山積している。

ウクライナ情勢ではロシアとウクライナ双方と友好関係を保ちつつ仲介役を買って出ており、欧米諸国からも期待されている。しかし一方でロシア製ミサイル防衛システム(S-400)の購入をめぐってはNATO加盟国でありながら米国と対立し、制裁措置を受けている。エルドアン氏はロシアとの関係を重視する一方で、NATOとの連携も維持しようとしているが、そのバランスは難しいものがある。

中東情勢ではシリア内戦やイラク情勢に積極的に介入しており、クルド人勢力やイスラム国(IS)との対立を深めている。また、イランやサウジアラビアなどの地域大国とも緊張関係にある。エルドアン氏はトルコの地域的影響力を高めることを目指しているが、その過程で多くの敵対者を作ってしまっている。

欧州情勢ではEU加盟交渉が停滞しており、人権や民主主義への侵害などで批判されている。また、トルコはEUと難民問題で協力関係にあるが、その見返りとしてEUからの支援金やビザ自由化などを要求しており、しばしば対立している。エルドアン氏は欧州との関係改善を表明しているが、その実現にはまだ多くの障壁がある。

エルドアン氏の「カリスマ」と今後の展望

エルドアン氏はトルコ政治史上最長の政権を維持しており、その背景には彼の「カリスマ」があると言われている。カリスマとは「特別な魅力や才能によって人々を引きつけ、支持や信頼を得ることができる人物」と定義されている。エルドアン氏はどのようなカリスマを持っているのだろうか。

一つは彼の演説力である。エルドアン氏は自信満々で情熱的な演説を得意とし、聴衆を感動させたり熱狂させたりすることができる。彼は自らの政策や理念を説得力や感情移入力を持って伝え、国民や支持者に共感や希望を与える。また、反対派や批判者に対しては厳しく非難したり攻撃したりすることで、自らの正当性や優位性を主張する。

もう一つは彼の指導力である。エルドアン氏は自らの政党や政府内で絶対的な権力と支持を持ち、迷いや揺らぎなく決断や行動することができる。彼は自らの信念や目標に忠実であり、困難や障害にも屈しない強靭な精神力を持つ。また、彼は自らの政策や成果に誇りを持ち、国民や支持者に自信や誇りを与える。

これらのカリスマによってエルドアン氏は多くの人々から敬愛されており、特にイスラム教徒や保守派、国民主義者などから強い支持を得ている。しかし、同時に彼は多くの人々から嫌悪されており、特に世俗派やリベラル派、少数派などから強い反発を受けている。彼のカリスマはトルコ社会を二極化させており、その分断は深まっている。

今後のトルコはエルドアン氏のカリスマに左右されることになるだろう。エルドアン氏は再選されたことで自らの政治的地位を確固たるものにしたが、それだけでは国内外で直面する難題を解決することはできない。彼はカリスマだけではなく、柔軟性や協調性も必要とするだろう。トルコ社会の分断を和らげ、多様性や寛容性を尊重することができれば、トルコはより安定した発展へと進むことができるかもしれない。

参考文献